『使ってみたい武士の日本語』(野火迅・著/草思社)ISBN978-4-7942-1636-6
時代小説を読んでいると,時々日頃耳にしない言い回しが出てくる。しかし,なんとなく自分で分かった気になって読み飛ばしていってもストーリーはわかるのでいちいちその言葉を調べたりはしない人がほとんどではないだろうか。
この本では,江戸時代には当たり前のように使われていたが,今では,時代小説や時代劇などでしか耳にすることのない言葉を紹介し,分かりやすく解説している。
面白いと思ったものをいくつかあげてみる。
「いかさま」
・・・イカサマ師のことではない。「なるほどな」の意を表すとき,武士は「いかさま,な」の決まり文句を吐く。
例:「なれど平助は,一橋家の控屋敷の者どもと,ひそかに連絡(つなぎ)をつけておりましたこと,明白です」
「いかさま,な」
(池波正太郎「御老中毒殺」『剣客商売』新潮文庫)
「過ごされよ」
・・・酒席において「パーっといきましょう」という意味。この「過ごす」は「度を過ごす」の意。客人や目上の者には「過ごされよ」と丁寧にいい,気が置けない友人には「過ごせ」とざっくばらんに言った。今度プライベートで使ってみようか,と思わせるくらい,なんともいい気持ち良い言葉だ。
「これはしたり」
・・・「これは驚いた」
「したり!」と叫べば「やったぞ!」という快哉の声となるが,「これはしたり」と決まり文句となると「しまった」「やりそこなった」の意味となる。また,「これは驚いた。やりそこなった」の意にも使う。
例:「これはしたり」
森は千坂に膝を向け変えた。森の顔からは微笑が消えて,指すような視線が千坂に当てられている。
(藤沢周平「幻にあらず」『逆軍の旗』文春文庫)
と,このように何とも味わい深い。昔の言い回しには,現在の日本語にはない,言葉の持つ含みや繊細さが感じられる。この本で紹介されている言い回しをいくつか覚えて,機会があればいつか実際に使ってみたい。
*1月10日のエントリーでも書いたが,この本を出している草思社は,民事再生法を申請し,事実上倒産した。なんとか再建して,また面白い本を出版してほしいものだが・・・。