新宿・歌舞伎町の風俗ビルの一角に亜玖夢博士の研究所はある。そこには,せっぱつまった男(時には女性)が,どうにもならない窮状を解決してもらおうと,一縷の望みを抱いてやって来る。
亜玖夢三太郎(あくむみたろう)博士は,海外の著名な大学で数々の学位を取得後,古今東西の万物の書物を読破し哲学・政治経済学から数学・物理学・生物学に至る諸般の学問に精通している,というとてつもない人物である。
相談者に対して,亜玖夢博士は時には経済学,またあるときは社会心理学の理論,そしてついにはゲーデルの不完全性定理まで使って解決策を伝授する。それぞれの理論は,いんちきでも何でもなく,(簡略化されてはいるが)まともなものである。しかし,その一見完璧な理屈に沿った解決策で相談者が救われるかというと,なかなかそうはいかない。それどころか時として「悪夢」を見てしまうハメに・・・。
一種変わった連作短編集である。分類としてはブラックユーモアと言えなくもないが,経済学などの理論を一般にも分かりやすい形で料理した小説とも言える。ネタになっているそれぞれの理論も,噛み砕いて説明してあるから読み進めるのに支障にならない。(ただ,最後のゲーデルの不完全性定理だけはちょっと分かりづらいが,これはもともと難しいので仕方がないかな)
ただ,なんとなくしっくりこないのは何故だろう?文体の軽さと,学問の理論を分かりやすく説明するという著者の目論見のブレンド具合がいまひとつなのかも知れない。しかし,あまり誰も考え付かなかったアプローチを用いた意欲作であることは間違いない。