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今はほとんど指さない将棋ファンです。角換りを中心に思うところを書いていきたいと思います。

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理想と現実のはざまで
1月5日にアップされた山崎七段の「たこやきノート」no40で、理想(人まねをせず創造性の高い将棋を指す)と現実(新手や新構想がなかなか結果にむすびつかない)のはざまでもがく棋士の苦悩が綴られている。

山崎七段と言えば、横歩取りにおける新旧山崎流をはじめとして、様々な新手・新構想を世に送り出している。例えば、昨年の竜王戦挑戦者決定戦第3局の丸山九段戦で39手目に指された▲56角(第1図)。

120911山﨑ー丸山1


次に△65銀とされると死んでしまうところに据えられた角・・・恐らく彼以外には到底思いつくことはできない構想である。一見無謀とも思えるが、これが実は手としては成立しているのだから、山崎七段の創造能力の高さ・先入観にとらわれない発想の豊かさには驚かざるを得ない。
この新構想で山崎七段は局面を優位に進めるが、49手目の▲83銀が失着となり形勢を悪化させ、その後も形勢を挽回できずに竜王への挑戦権を手にすることができなかった。

また、昨年12月20日に行われたB級1組順位戦・久保九段戦では、先手久保九段の四間飛車に居王のまま△25歩~△45歩~△35歩と位を取る驚きの構想で対抗。さらに22手目に△55歩と突き、序盤早々2~5筋の5段目に後手の歩が並ぶという珍形が出現した(有料コンテンツのため図面掲載は控えるが、名人戦棋譜速報に登録されている方はぜひこの将棋の22手目の局面を見ていただきたい)。私などは目がくらくらしそうだが、この作戦で後手の山崎七段は先手の王頭に拠点の歩を据えて優位に立つ。
しかし、中盤以降久保九段の指しまわしが巧妙を究め、この将棋を逆転されてしまう。もしこの局を勝っておけば双方ともに6勝3敗となり、昇級に望みをつなぐことができたのだが、なんとも痛い敗戦だった。

誰も思いつかない新構想を実戦で披露して優位に立つが、なかなか勝利に結びつかないーーー山崎七段の苦悩は想像するに余りある。



仮に棋士を大きく創造派(ロマンチスト)と現実派(リアリスト)に分けるとすると、例えば升田が前者、そして大山が後者となるだろうか(単純には言えないのは分かっているが、話を分かりやすくするために)。現役棋士で言えば、藤井九段などは創造派の代表格になろうか。一方の現実派を定義するのは難しいが、勝つ可能性が高い戦法を集中的に研究し実戦に投入する棋士…何年か前の丸山九段のイメージである。今発売中の将棋世界2月号での渡辺竜王のインタビューを読むと竜王も結構徹底したリアリストのように思える。

創造派の代表格である升田については、故・真部九段が名著『升田将棋の世界』において

升田型の棋士は大きな構想力をもって新手法を打ち出し、ぐいぐい局面を主導的に動かしていく。その勝ち方は真に鮮やかであり喝さいを浴びる。
 だがその半面、負けるときはちょっとしたケアレスミスで、これまで営々として作り上げた将棋を台無しにしてしまう。

 
と述べ、さらに東京女子大の林道義教授が囲碁棋士の深層心理を分析していることを紹介し、

 その説を拝借して将棋にあてはめると、升田型を着想型と分類し、着想型になぜ終盤のミスが多いかは、この型の人は「種を播く」ことは好きだが「刈り入れる」ことには興味がわかないという特徴を持っている。
 いろいろと素晴らしいアイデアを出すことには情熱を燃やすが、その果実を獲得することにはあまり興味を示さないと述べられている。
(中略)
 ただ、この型の人はそれを無理に直そうとして勝つことのみに専念したら、肝心の着想がわいてこなくなりかねないから、せいぜい終盤は気をつけるよりない、と結んでおられる。


と理論派である真部九段ならではの興味深い論考を行っている。

もちろん、創造派といっても升田と山崎七段とはタイプが全く同じというわけではないし、通算勝率が.669(459-227)、今年度の成績も.594(19-13)と高勝率を誇る(データは平成25年1月5日現在)山崎七段の中終盤力が他のトップ棋士に比べて決して見劣りするわけではない。むしろ「ちょい悪」の局面を辛抱し逆転する技術にも長けている柔軟で力強い将棋である。

ましてや、現代の将棋は升田の時代に比べれば、優勢の局面を「勝ち」につなげる技術は飛躍的に伸びているはずであるから、上記の理論をそのまま当てはめるのは妥当ではないかもしれない。

ただ、前例のない局面ーだれも足を踏み入れない荒野ーに新たな道を自分一人で切り開くのは相当な情熱とエネルギーを必要とするため、最終的に勝利を手にするためには人一倍の集中力の持続や精神的なスタミナが要求されるのだろう。

出来れば、山崎七段には今のまま頑張って精進を続け、人まねをせず創造性の高い将棋を指す「理想」とA級昇級やタイトル獲得という「現実」の両方を手にしてもらいたい。ただ勝つためだけになにがなんでも穴熊に組もうとする窮屈な将棋や90手を超える局面まで前例通りに進む研究将棋よりも、自分一人で新しい道を切り開こうとするその志は貴重であり、その創造性が将棋の可能性を今よりもずっと広げていくと思うから。


<1月8日追記>
上記の林教授の説が孫引きだったので図書館で原典を調べた。1993(平成5)年に出版された『囲碁の深層心理学』という本からの引用と思われる。専門のユング心理学の観点から囲碁棋士の深層心理を調べた興味深い内容だった。




米長将棋連盟会長が死去 69歳
将棋連盟会長の米長邦雄永世棋聖が亡くなった。
毎日jp

今年1月に自らが戦ってコンピュータソフトに敗れた第1回将棋電王戦では、白髪ではあったものの元気そうな姿だったが、先日の第2回電王戦の告知PVでは、まるで別人のようにやつれていたため体調を危惧していた。とはいえ、こんなに早く亡くなるとは思っていなかった。

69歳でのがんによる死は、奇しくも現役時代にタイトル戦で激闘を繰り広げた故大山十五世名人と同じ。大山も3代前の連盟会長である。連盟のトップというものは想像以上にストレスがかかる激務なのかもしれない。

米長を語る時に、棋士としての顔と連盟会長としての顔との2つの視点がある

棋士としての米長は最高だった。

中原ー米長の将棋が最高峰(加えて前時代のチャンピオン大山+重戦車加藤一二三の4強)の時代に将棋を覚えたものにとって、米長の将棋は痛快至極だった。たいてい序盤は不利になるが、そのまま押し切られることはなく、中盤に入ると妙な局面に誘導し勝負を混沌とさせる。そして相手が局面をもてあましているうちに圧倒的な終盤力で鮮やかに抜き去り逆転勝ちをおさめるー。泥沼流とは良く言ったもので、定跡形ではない力戦になると無類の強さを発揮した。弱いアマの私でもそんな米長の将棋に憧れを抱き、0.0001%でもその終盤力を身につけたいと、将棋雑誌や新聞に掲載されている米長将棋の棋譜をむさぼるように並べたものである。
将棋の強さに加え、弁舌は洒脱かつユーモアがあり、またエッセイ等の文章を書かせても上手く、とても本職が将棋指しとは思えないほどだった。
ただその頃から、タイトル戦で勝ったのを喜んだあげく、打ち上げの宴会で裸になったり(そして一緒に裸になるよう弟子の先崎に強要したり)、ヌードを週刊誌に掲載したりと、破天荒な言動はあったものの、それはかえって米長の勝負師としての一面をファンに強く印象づけ、「本物の棋士(=勝負師)とはそういうものだ」と納得させる範囲に収まっていたように思う。


しかし、連盟会長としての米長は(残念だが)正直言って功罪相半ばすると言わざるを得ない。

アイデアマンとしての才能は抜群で、アマチュアであった瀬川晶司のプロテストを興行として成立させて将棋界のPRとして利用したり、2007年にはコンピュータ将棋選手権優勝のボナンザと現役タイトル保持者の渡辺竜王との対決を実現させたり、(いろいろと批判はあるものの)毎日新聞単独開催だった名人戦を朝日新聞との共催にこぎつけたり…と、二上会長や中原会長時代にはとうていできなかったであろう事業を成功させる。
そしてなによりも最大の功績は、自身の命を削るように情熱を注ぎこんだ電王戦で、急速に力をつけ、今や棋士に肉薄するだけの実力を持つと言われているコンピュータソフトと現役のプロ棋士との対決を実現させた(対局は来年春だが)ことだろう。これは米長でなくてはできなかっただろうし、この興行によって連盟は少なくとも今後10年間は組織として生き延びることができるだろう。

しかし一方で、その言動はさまざまなところで軋轢を生んだ。
女流棋士が自立するように圧力をかけた件では、連盟の対応に反発した一部女流がLPSAとして独立し、結局のところ女流棋士は今も分裂したままの状態で連盟とのしこりを残している。また名人戦での共催の際の毎日新聞への対応も、世間の常識からみると失礼千万だと当時はかなり批判を受けた。
米長の才気煥発は誰もが認めるところではあるが、その舌鋒はともすれば鋭い刃になって周りを切り裂いてしまう。いち将棋指しであれば「勝負師の面白い一面」として許される言動であっても、組織の長ともなればその影響ははるかに深く、重く、そして時には世間からの厳しい指弾を受けるのである(もちろん米長自身もそれは重々承知のことだっただろうが…)。

米長は自身の才気をことさら世間に示したいという自己顕示欲が強く、特に会長という公職にあっては、それが悪い方に出てしまった感じである(だれか諌めるものがいれば…という気もするが、本人は他人の諫言など聞かないだろうから、いまさら言ってみても仕方がないことか)。時には、あふれる才気を抑え我慢すべき局面で我慢できなかったことが、彼の限界だったように思う。将棋では不利な局面を我慢して挽回することがあれほど得意だったのに、“社会”という盤面で、連盟会長という駒として動くことはいささか勝手が違ったか。



ともあれ、きらめく才能を見せつけながら、昭和ー平成という時代を駆け抜けた大棋士は、コンピュータと棋士が5対5で対決するという歴史的な舞台を準備し、そしてその結果を目にすることなく、天に召されていった。

合掌。




NHK杯準々決勝第2局 ~プロがうなる“わけのわからない手”▲47桂で羽生が制勝
録画していた2月12日のNHK杯準々決勝第2局、▲羽生二冠ー△郷田九段戦を観る。
角換り腰掛け銀同型から、先手が仕掛けで4→2→1→7筋の歩を連続で突き捨てる定跡形へ。47手目の▲35歩に対し後手の郷田九段は△81飛(第1図)と飛車を1つ引いた。

120212羽生ー郷田1

これには前例があり、前期(第69期)のA級順位戦6回戦(2010年12月10日)▲郷田九段ー△渡辺竜王戦で当の郷田九段が後手の渡辺竜王に指された手だ。その局では、第1図以下▲45桂、△44銀、▲74歩、△41飛、▲73歩成、△45銀直から後手は苦戦に陥り、先手の郷田九段が勝っている。今回はその経験に基づき十分な研究のうえに指されたものであることは想像に難くない。事実ここまで郷田九段の指し手は早く、よどみがない。

本譜では第1図から▲45桂、△44銀、▲74歩と前例通りに進んでいたが、52手目に後手は△45銀直と手を変えた。これが郷田九段が考えた修正手順だったのか。以下▲45同銀、△41飛、▲44角、△55角、▲同角、△同銀、▲73歩成、△45飛と進んだ61手目、羽生二冠は▲47桂(第2図)と指した。

120212羽生ー郷田2

ここまでほとんど時間を使わないで快調に指してきた郷田九段の手が止まる。研究からは外れていた手なのか。郷田九段の表情からはその内心を読み取ることは難しいが、やや当惑しているような様子もうかがえる。郷田九段は茶碗に手を伸ばし、気持ちを切りかえた後、3~4分考えた末にようやく△76歩と次の手を指した。

解説の深浦九段は▲47桂を見て感心したように「なるほど…(さすがに羽生二冠は)短時間でなんか出してきますね~」とつぶやいた。深浦九段はよほど感心したのか、その後もこの手に言及し「やはり▲47桂は印象に残ります」と言ったかと思えば、ついには「(▲47桂のような)わけのわからない手は読みにくいというか研究しにくいんです」と言い、「そこがこの二人の対戦成績に差がついている(羽生二冠の42-20のダブルスコアとなっている)理由です」とまで言い切ったのだ。

確かに直線的な手順でも攻め駒がさばけた先手に不満が無いこの局面で、あえて曲線的に指す▲47桂はプロでも頭に浮かび難い。いや、むしろ筋の良いプロだからこそ盲点となるのだろう。

本局は、この▲47桂以降先手が局面をリードし、終盤に少し勝負のあやがあったものの99手で先手の羽生二冠が制勝し、前人未到のNHK杯4連覇へ向けてまた1歩前進した。局後の感想戦で郷田九段はこの▲47桂を「良い手だ」と褒め、「指されると手が広くて難しい」と感想を述べていた。

そういえば羽生二冠は、このNHK杯戦放映前日の2月11日(土)に行われた第5回朝日杯将棋オープン戦の決勝の対広瀬七段戦でも、プロが嫌う“筋の悪い”手である△67銀(参考1図)を放ち、結局はこれが決め手になって優勝を果たしている。


120212広瀬ー羽生


未だ生涯勝率7割2分を誇る羽生二冠が、他のプロと一線を画している秘密のひとつは、(これまであちこちで語られているが)将棋ソフトと同様に先入観なく局面を見ることができ、そしてたとえプロ的には筋が悪く見えても、その局面における最善手を指すことができる能力なのだろう。そのことを垣間見ることができた1局だった。

潮目が変わったか!? ~竜王戦第3局
竜王戦第1局では中盤から圧倒しての中押し勝ち。第2局は終盤の読みの力を見せつけて快勝と、竜王戦での強さを今期も発揮している渡辺竜王が、第3局でも1日目から局面をリードしていた。封じ手で▲11馬(第1図)と王側の香車を奪って先手は不満なし。

111109渡辺ー丸山1

今の両者の勢いからすればこの局も竜王が押し切ってしまいそう。そうなれば3-0となってシリーズの趨勢もほぼ決まってしまうのではないか、などと考えていたが、勝負事はなかなか恐ろしいもので、絶好調のなかに落とし穴の芽が潜んでいることがある(逆に絶不調のなかに反攻のきっかけが見つかることもあるのだが)。

第2図は70手目後手が△33角とした局面。

111109渡辺ー丸山2


先手はここで▲45香と指したのだが、ここでは▲73銀成とするのが有力だった。好位置にいる飛車をどかすために打った銀を働かせる手は当然竜王にも見えていたのだろうが、好調であるがゆえに勢いよく攻める順を選択してしまったのだろうか。

この手を逃したため、結果的に74の銀が遊ぶ形となり、82手目に後手から△41香の攻防手をくらって先手は痛恨の逆転負け。丸山九段にとって3連敗を免れたこの1勝は大きく、次局の先手番をキープすれば勝負は振り出しに戻る。ひょっとすると、この第3局がシリーズの潮目の変わるきっかけになるかもしれない。ともあれ、次の第4局が双方にとって正念場となるだろう。

第24期竜王戦第2局(1日目) 角換り腰掛け銀から緊迫した局面に
第24期竜王戦第2局は、大方の予想通り腰掛け銀となった。双方ともに得意の戦型だ。後手の渡辺竜王は26手目に△65歩と位を取り、△74歩を突かない徹底した待機策で先手を迎え撃つ。

17時からのBSプレミアムで阿部八段がこの形の基本を解説していた。参考1図は昨年(2010)12月の第23期竜王戦第6局▲羽生名人(当時)-△渡辺竜王戦の40手目の局面。

111025丸山ー渡辺参考1

後手はこの形が最善形。仮に参考1図が後手の手番だったとして△42金引きとすると先手から▲45歩の仕掛けを許すことになる。
参考1図から先手が仕掛けるのはなかなか難しく、▲45歩、△同歩、▲同桂に△42銀と引いて次に△44歩と桂取りを見せることができるのが大きく後手が指せる、と阿部八段。

この変化をはじめとする膨大な変化を水面下に局面は進む。本譜は41手目△12香と穴熊を見せた手に対し、先手は48飛+47金の形で▲45歩と仕掛けた(第1図)。

111025丸山ー渡辺1

第1図から△45同歩、▲同桂、△44銀、▲46歩の後の△64角(第2図)は竜王が勝負を賭けた手か。

111025丸山ー渡辺2

第2図以下▲17香、△33桂、▲15歩、△25桂(第3図)と双方苦心の手順が進む。△25桂の後の54手目を渡辺竜王が封じ、指し掛けとなった。1日目にして非常に難解な局面となっており恐らくすでにどちらかに形勢が傾いているのだろう。先手の攻めを後手が凌げるかどうか。

111025丸山ー渡辺3

明日は会場である大阪府吹田市のホテル阪急エキスポパークへ行ってみるつもり。京都からだと阪急+モノレールを乗り継いでも小一時間で行けるはず。

*リアルタイム中継は、竜王戦中継サイトにて



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